イージーゲーム 






いつだって特別な人の為に笑っていたいよ
“愛しい”と思ってくれているのならば 傍に居たいよ

二人で居れば お互いに笑顔になれる





ずっと…そんな“嬉しい”感情で溢れていればいいよね





























この手は絶対離さない










「うわぁぁあ?!!!」
早朝から埼玉県の民家で少年の叫び声が響いた。
迷惑したのは同じ家の住人とご近所の人たちぐらいのボリュームだったが。
だが実際には悲鳴の主の家族は彼が叫んだにも関わらず、誰一人起きてくる気配がない。
辛うじて隣の部屋の兄が布団の中で少し身じろいだ程度だった。
…どうやら少年が早朝から叫ぶのは頻繁にある事らしかった。

「こ、こここ…!!!」
しかしながら叫んだ本人にそんな事を気にする余裕はないらしく
(そもそも、そんな余裕があれば叫んだりはしないのだが)
彼はある一点を指さしたまま、ベッドの上を後ずさり壁に頭をぶつけた。
彼の指の先には此処にいるはずのない人物が居た。
物理的にというか、時空的と世界的にありえない事実が目の前に転がっている。



ウェラー卿コンラート

今同じ布団に寝ているのは 最近出来た、異世界の彼氏だった。





落ち着け。とりあえず落ち着いて考える事から始めよう。
そう意気込み、ゆっくり深呼吸を2回して再び目を開けたが
目の前に転がるコンラッドの寝顔で深呼吸の意味がなくなった。
整えたはずの息が再三乱れる。
それほどの威力を寝顔で発揮するとは…恐るべし、コンラッド。
(…じゃなくて。何を寝顔に見とれてるんだ!)
心の中で自分に突っ込みながら、赤くなった頬をパンと両手で叩く。
少々熱くなった顔を整えて思考を元に戻して彼を見る。

「コンラッド…だよ、な?」
別に自分の彼氏の顔を忘れた訳ではなかったが、現実的に彼が地球に居るのが信じられない。
しかもこんな早朝に、何故か同じ布団に入って当然の様に寝ている。
これが自称婚約者だったならば毎度の事なのだが、今回ばかりは相手が相手なので
何か特別な理由があっての事なのだろうとは思うけど…。
しかし昨日は別に何もなく、普通に眠りについたのに。
考えても答えの出ない問題に不意に夢なのかと思ったが違ったらしい。
抓った頬が先ほどとは違う意味で赤くなる。
(…寝てる。オレが隣でこんなに動いて騒いでるのに、起きないなんて。)
彼は軍人だ。眞魔国では少しでもオレの気配を察知したら姿を隠していても判るらしく
寝ていても近づくだけですぐに目を覚ましてしまう。
それ所か気付かれずに近づけた試しがないっていうのに。
今はマジマジと寝顔を拝む事が出来ている。そう考えるとこの時間は貴重だ。
(すげ〜!…寝てると可愛いかも。。////)
滅多にない機会と判ればこのチャンスを逃す手はない。
オレは恋人のあどけない寝顔を覗き込んで、少し顔を近づけた…刹那、
不意に伸びて来た手に、ぐいっと顔が引き寄せられる。
(ふへ?!!)
声を出す暇もなく引っ張られ、重力に従ってコンラッドの顔が近づいた。

ちゅ

「…捕まえた。可愛い寝顔泥棒v」


「ぎゃーーーーー!!!!!!」


バシン!!


再び叫び声が響いた。
今度はその後に別の音も混じっていたが。







****






「酷いなユーリ、いきなり引っ叩くなんて。」
「あんたが変な事するからだろ!!!」

頬を擦りながら抗議してくるが、顔は笑顔のままなので全然痛そうではない。
そう、こいつは寝たフリを決め込んでオレが寝顔を覗き込むのを待っていたのだ。
(…性格悪いにも程があるだろっ!!////)
あまりにも驚いたので思わず彼の頬を引っ叩いてしまった。
自業自得だとオレが視線を逸らすと、彼は妙に真剣な面持ちになった。
「…しかし困った事になりましたね。…ユーリ、」
コンラッドの真剣な問いかけに、今回彼が地球に来た理由には何かがあるのだと思い
言葉を切ったコンラッドを見つめ返した。
が。
「さっきのはユーリからの貴重な求婚だったのに、誰も証明者がいませんね。」

「……少し黙ってろ。」


的外れな事を言い出す彼に地球に来た経緯を聞いてみれば、どうやら原因は村田にあるらしい。
(予想していたと言うか、絡んでいるなら村田しか考えられないのもあるが。)
コンラッドは村田に“オレの為に地球に行って欲しい”と言われ
当然のことながら彼が断るはずもなく…二つ返事で地球にやって来た。
(…何で村田の言う事を信じるかな。いくらオレの為の事態とはいえ。)
ところが目が覚めれば夜も静まった時間帯に渋谷家の風呂場に出た。
まだリビングで起きていたお袋に事情を話してみれば
「困ったわねぇ〜、ゆーちゃんもう寝てるのよ。あの子夜寝るの早いから。
 そうだわ!今夜はゆーちゃんの所で一緒に寝てね。大丈夫よ、あの子怒ったりしないから。
 だって一緒の部屋で寝たら、確実に一番初めに「おはよう」って言えるでしょ?」
…と、お決まりのジェニファー節でオレの部屋へ押し込まれたらしい。


「だったら、素直に“一番初めにおはよう”言えば良かったんじゃないの?」
何を思ってキスなんてしてくるんだか。しかも狸寝入りで。
「だって目を開けようとしたら、ユーリが熱心に見つめてくるから。」
近くにユーリの顔があるのに、キスしない訳にいかないでしょ?
そんな筋の通っていない反論をされ、少し照れが込み上げた。
それを悟られたくなくて、立ち上がって勉強机の上に置いていた携帯を握り締める。
幸い彼に背を向ける格好になったので顔は見られていないと思う。
しかし背後で笑った気配がした。くそぅ、やっぱりバレている。
握り締めた冷たい機械が掌の温度を中和してくれるかと思ったが、全然効果がなかった。
少し照れが引いたところで、オレは携帯から村田に電話をかけた。
今は日曜日の早朝だが彼ならば確実に起きているだろう。
数回のコールの後にプツリと音声が途切れて、少し遠慮がちな声が耳に響く。
「…もしもし。渋谷?どうしたの、こんな朝早くに。」
少しテンションが低いのは朝だから声の出が悪いせいだろう。
「どうしたも何も…オレが電話かけてる原因、お前なら判るんじゃないの?」
唐突にもオレが非難の言葉を投げると、案の定村田は「あぁ」と声を漏らした。
「あぁじゃない!何でコンラッドがこっちに居るんだよ!
 オレの為って…まさか何か大変な事態が起こってるとか?」
握り締めた携帯に向かって一気に捲くし立てる。
緊急事態かもしれないならば一刻も早く事態を把握しないと。
こちらとは対照的に村田は少しも焦っている気配もなく、言葉からいつもの余裕が伝わる。
朝っぱらからよくそんな元気が出るな、と言いたげな雰囲気の後に彼は飄々と言い放つ。
「だって、渋谷誕生日近いだろ?」
そんなすっ呆けた返答が耳に届いた。
「は?それがコンラッドと何の関係があるんだよ。」
確かに今日の暦は7月を過ぎた所で、29日ではないが誕生日はもうすぐだ。
コンラッドと一緒に誕生日を過ごせればいいなと思ってはいたが、何もそれだけで
わざわざ村田が動いてくれたとは俄かに信じられない。
そんな問いかけをするオレに、村田は少し笑って、
「誕生日になればあっちの世界では聖誕祭で忙しくなる。
 そうすれば恋人との時間なんてたぶんあんまりなくなるだろ?
 だから暦はズレるけど、少し早い僕からのプレゼントだよ。」
それに…君、デート特集の雑誌をしきりに読んでたじゃないか。
「え!な、なんでそんなこと知ってんだよ!」
実を言うと机の引き出しの一番上には雑誌が突っ込んである。
それは地球でのデート特集を組んでいる雑誌だった。
「照れなくてもいいよ渋谷。そんな君の欲望を叶えてあげるって。」
まぁ誰にも邪魔される事なく2人で楽しみなよ。
それだけ言って唐突に通話を切られた。
(この前雑誌を机に置きっぱなしで出掛けた事があった。
たぶんそれを見たお袋から村田に情報が流れたに違いない。次から気をつけねば。)
恨めしそうに通話の途切れた携帯を睨みつけていると隣から声がかかる。
「どうでした?何か言っていましたか?」
彼はベッドに座ったままなので、当然ながら立っているオレの方が目の位置が高い。
コンラッドに下から見上げられる事に免疫がないので再び照れが込み上げる。
頬が赤くなる前に先手を打って、窓を開けながら視線を逸らした。
「…ん。特に緊急じゃないみたい。」
オレはそれだけ言って、さっき交わした言葉を思い出していた。

“デート特集の雑誌をしきりに読んでたじゃないか”
確かに本屋でそんな雑誌を見かける度、彼の事を思い出したりしていた。
机にあるのは友達から貰った物で決して買った訳じゃないけど、初めて手に取った
恋人たち専用の雑誌は華やかで、こんな事をコンラッドと一緒に出来たなら
どれだけ楽しいだろうと幾度も考えたりしていた。
だけど実際問題コンラッドが地球に来るのは緊急事態でしかありえない事であって
ましてや自分の為だけに来るなんて思ってもみない事態で。
そんな事をぐるぐる考えていたオレだったけど、最後に村田の一押しを思い出す。

“誰にも邪魔される事なく2人で楽しみなよ”

「…コンラッド。」
窓の方を向いて、背を向けたままの彼に告げた。
「はい?」
オレの表情が見えないので不安気味なコンラッドの返事が返ってくる。
「せっかくだから…出掛けてみない?」


今日くらいは、友人の思惑に乗っかってやるのも悪くない。








****








これが人生においての初デートになる。
デートという響きに不慣れなので考えただけでも頬が染まりそうになって
目の前のコーヒーカップを見つめながら、小さく頭を振って想像を振り払った。
「ユーリ?」
向かいの席から声が掛かり、カップを挟んで彼の顔が視界に入る。
心配そうに「どうしたんですか?」と訊ねてくるコンラッドは少し眉を寄せて
そんな表情でもカッコ良いなぁ、とか思っている自分は末期症状だと思う。
「あ、いや。何でもない。…ただ、やっぱコンラッドとこの背景が不自然でさ。」
完全に心配される前に慌てて言い訳を引っ張り出して答える。

出掛けようと誘って私服に着替えた後、勝利の服を1着拝借して彼に着せた。
当然ながらにカッコいい奴は何を着てもカッコいいので(のろけじゃないぞ!)、
適当にチョイスしてきたにも関わらず、彼は完璧に着こなしてしまった。
家族が起き出す前に家を出て、徒歩でとりあえず駅前通りを目指した。
何処に行きたいか訊ねても「ユーリの行きたい所で」と返ってくるもんだから
初めにこの時間帯でも開いている喫茶店に入る事になったのだった。

「そんなに浮いてますか?ちゃんとこっちの服を着てるのになぁ。」
そんな的外れな事を呟きながら、コンラッドは借り物の勝利の服を見つめる。
(いや、服の問題じゃなくて。)
オレはコーヒーを口にしながら、チラリと店内を見回した。
時間帯は朝の8時を回ったところで、喫茶店ではモーニングのお客で溢れている。
だが。
(何故かと言うか、やっぱりと言うか…。)
店の従業員の女子の視線が一点に集中して注がれている。
それは言うまでもなく目の前のコンラッドに集まっている訳で。
彼も視線は感じているらしいが、どうやら私服とのミスマッチが原因だと思っているらしい。
(少しは自分がモテる事を自覚しろよな!)
そんな事を言えば、こちらが恥ずかしくなる様な反論が返って来そうなので言わないけど。
何となくモヤモヤした気持ちを抱えたまま、注文したモーニングを食べる事に意識を置く。
運ばれてきたメニューは、ハチミツトーストとサラダとフルーツ、そしてゆで卵。
「喫茶店のモーニングって初めて食べるけど、意外とボリュームあるよな。」
「そうですね。アメリカの朝食はこんな感じでしたね。」
普段あまり来ない喫茶店に入ったのは、一先ず次の場所を考える事が出来るのと
洋風な風貌のコンラッドをカモフラージュするには丁度良いと思ったからだ。
「いただきますっ!」
手を合わせてから早速ハチミツトーストに齧り付いた。
口の中にハチミツの甘い味が広がり、思わず笑顔になる。
(美味しい…!)
うちは朝食は和食派なのでトーストは滅多に口にしない。
久々の食パンの感じに、ついつい口にたくさん頬張って食べていると
「可愛いですね。」
「……っ!!////」
そんな事を言うもんだから思わずトーストが喉に詰まりかけた。
チラリと上目遣いで彼を見やれば、ニコニコしながら上品にコーヒーを飲んでいる。
何となく動きを止めてから斜め下に視線を逸らして、もそもそと租借する。

そんな何気ない行動もカッコ良く見えてしまって
今度こそ思い切り赤面してしまったオレは、しばらく顔を上げれなかった。



モーニングを食べ終えた後、いよいよ本題へ話を移す。
これから何処へ行くか色々考えてみたけれど、前もって判っていなかったので
予算も無い事ながら雑誌をおさらいする余裕もなかった。
(さて、どうしたもんかな…。)
残り半分になったコーヒーを飲みながら心の中で呟く。
時刻は1時間経って、朝の9時を回ったところ。まだまだ時間がある。
オレは頭をフル回転させて、記憶の中の雑誌から今後の行き先を検討していた。
すると余程オレが難しい顔をしていたのだろう、コンラッドはコーヒーカップを置いて
考え事に気を取られているオレの眉間に手を伸ばした。
思い切り油断していたので、喉まで出掛かった声を慌てて飲み込む。
(うわ!!びっくりするじゃん!!)
心の中で非難の声をあげながら、そこで漸く自分の眉間に皺が寄っていた事に気付く。
「そんなに難しく考えなくても。俺はユーリと一緒なら、何処でも楽しいと思います。」
「あんた…よくそんな恥ずかしい事を真顔で言えるよな。」
こちらはそういった言葉に免疫が一切備わっていないので仕方がないのだが。
(何か、慣れてます〜って感じでムカつく。)
恥ずかしそうにしていたと思えば今度は頬を膨らませるオレを見て、
「此処でずっと、ユーリの百面相を見ているのもいいですね。」

そんな余裕の言葉に、オレは再び言葉を詰まらせた。







****







家の近所はそんなに都会ではない。
てっとり早く東京ディズ●ーランドとかに行けばいいのかもしれないが、今日は日曜日。
日曜日に一番混んでいるであろう場所に行く勇気は残念ながらオレにはなかった。
どちらかと言えば、出掛けるならば出来るだけ人通りの少ない場所がいい。
今の若者にあるまじき考え方のオレは、初デートだというのに此処を選んだ。
もちろん、恋人は文句を言わずに着いて来てくれた訳だが。
「えーっと、何かゴメンな…こんな場所チョイスしちゃって。」
退屈じゃないかな?と控えめに詫びを入れながら様子を伺う。
しかし当然ながらコンラッドは心配そうなオレに笑い返してくれて
「いえ。俺はとても楽しいですよ?」
フォローまでもが男前。オレは心の中で同性として彼に憧れを抱いた。

オレたちが来たのは近くの植物園だった。
その名の通り自然に溢れていて、温室やら花壇やらで敷き詰められた土地は
まるで物語の世界みたいに色とりどりの花々で賑わっている。
オレは普段植物園に足を運ぶ事はないが、雑誌で此処の花壇の写真を見た時に
不意に眞魔国のツェリ様栽培の花の事を思い出したので記憶に残っていた。
眞魔国の花も綺麗だけど、折角の機会だから彼にも地球の植物を見せたいなと思い
泥臭い野球小僧の脳内からは想像も出来ない「植物園」という選択肢をチョイスしたのだ。
「オレも初めて来たけどさ、結構色々あるよな。花以外にも…樹木も置いてるんだ。」
自分よりも大きな木を見上げながら素直な感想を述べる。
実際に来たのは本当に初めてだ。こんなに近くにあったのに。
隣をすれ違う人は高齢者が多くて、若者の姿はあまりない。
(これならコンラッドに集まる視線も少ないよな。)
若者人口が少ない事を密かに喜びながら、今度こそコンラッドを独り占めした気分に浸る。
ご機嫌なオレをみつめながら、自然とコンラッドも笑顔になっている。
「こちらの花も綺麗なものが多いですね。眞魔国にもいくつか種を持ち帰って
俺も母上みたいにオリジナルの品種改良をしようかな。」
そう真剣に話すコンラッドに、オレは先ほど見かけた売店に種が売っているのを発見し
後で好きなのをプレゼントしようと心に決めた。
(いつも向こうではお忍びの時に色々と奢ってもらってるから、たまには恩返ししないとな。)
「そうなんだ〜。やっぱコンラッドも、ツェリ様みたいに花を栽培するとか好きなの?」
純粋に眞魔国の人々は結構植物を大切にしている人が多い。
実際に誰の屋敷に行っても庭の手入れ専門に人を雇っているのがほとんどだ。
だからコンラッドにも、そういうのがあるんだろうと思っていたのだが。


「そうしたら俺も、その花にユーリの名前を付けるんです。」


「………は?」



今日一番、うきうきした表情で彼は言った。
まったく…何を考えているんだか、相変わらず理解不能だ。










****







あれからしばらく植物園を楽しんだ。
園内を見回って昼食を食べて、売店でお土産の花の種を二人で散々悩んで購入した。
(この時なんの花にするかで口論になったのは言うまでもない。)
そんな事をしているうちに時間は過ぎていて、あっという間に外は暗くなりかけだった。
夏に差し掛かった初夏の終わり。
薄暗い空が心地良い帰り道で、不意に隣にいる彼と手が触れた。
(……っ!////)
オレは思わず赤面して手を握り返そうとしたが、人通りの多い交差点を歩いていたので
恥ずかしさに耐え切れずに手を振り切り、思わず目の前の横断歩道を一気に走り切った。
「ユーリ!」
控えめに彼の声が後方から聞こえたのに、オレは恥ずかしさから思考がいっぱいで
自分が犯した事の重大さに気が付くのに少し遅れた。
(あ…!)
信号を渡りきって振り返っても、そこにコンラッドは居なかった。
正しくは自分が走って渡ってしまった為に彼と離れ、その間に信号が変わってしまった。
横断歩道を挟んで向かい合っているので別に見失った訳ではなかったが
何故かコンラッドが凄く遠い存在の様な気がして、オレは不安でいっぱいになった。
(早く…!信号、変わって!!)
届きそうで全然手が届かない感覚には覚えがあった。
決して、二度とは思い出したくない悲しい気持ちで心が痛くなった。

彼が自分の元を離れて、シマロンへ渡ってしまった時
オレはコンラッドに何もしてあげられなくて
それどころが、彼はオレの為に敵地へ赴いたのに
(そんなコンラッドを、オレは一瞬でも責めてしまった。)
手を伸ばして共に帰ろうと言ったオレに、彼が示した答えはNOだった
“何でだよっ!”そんな気持ちでいっぱいで、少しだけコンラッドが判らなくなった
(だけどそれは、オレの為だったのに。)


いつもそうだ オレは大切な存在は、ずっと傍にあると思い込んでいる
だけどそれは違っていて 本当はずっとなんて保障は何処にもなくて
そんなモノに 何も知らないまま自分はいつも背を向けて…失う
そして失くしてから気付く 今までの行いが、どれだけ愚かな事かって


信号が青に変わった。
横断歩道の上を人々が行き交い、その中でコンラッドが足早にこちらに向かってくる。
焦ったように息を切らせながらオレの元にたどり着いたコンラッドは
「すみません、ユーリ。あなたから離れてしまって…。」
明らかに自分のせいではないのに、大人な彼は自分から謝罪をする。
この状況でどちらに非があるのかなんて明確なのに、彼は一切オレを責める事はしない。
(そんなコンラッドの手を、オレは振り払ったんだ…。)
ただ人ごみの中だというだけの理由で
もしかしたら二度と掴めなくなるかもしれない手を、そんな理由で振り払った。

“失くしてから気付く 今までの行いが、どれだけ愚かな事かって”

「…っ、ユーリ?」
困惑気味なコンラッドの声が後方からしたけれど、オレはお構いなしに前方を歩いた。
何故コンラッドが困惑しているかと言うと、たぶんオレが普段しない事を突然したから。
「……手、繋いだままがいい。」
自分の愚かさに思いあたって、今度は迷わずにオレから彼の手を握りにいった。
やっぱり恥ずかしさのあまり顔は見れなくて、ずんずんと彼を引っ張るように
前方の人ごみの間を縫って家路への道を早足で歩いていく。
バレないように気を配っていても、たぶん耳は真っ赤になっているので
後ろに居るコンラッドはそれに気付いて内心笑っている事だろう。

だけどそれでも構わない
笑いたければ笑えばいい
そんな事よりもオレが大切にしたいのは 今、コンラッドが傍に居るという事実









誰に批判されようと 何を言われようと
大切だと思うモノならば それだけを信じていればいい

だから

この手は絶対、離さない









END
































あとがき


むつを様からのリクエスト
「コンユ地球デート」で書かせていただきました☆
リクにちゃんと沿えていたのでしょうか…??
そういえばあまりデートしていないような。。(死

他の素敵サイト様のところの地球デートは
遊園地とか華やかな所に行っているのが多いのですが
実際管理人は人ごみとか苦手なので、基本的に思考が静かな所って事で
初デートだというのにスタートが地味な喫茶店でモーニングという展開;
そして植物園。。しかも内容が薄い(><)
重ね重ね本当に申し訳ないです…。。
お前は本当に20代か!と言われそうなスポットのチョイス;;
私にデートコースのセンスは全然ないみたいです。。

最後まで読んでいただいてありがとうございました!!
少しでも楽しんでいただければ幸いに思います☆


では、リクエストしてくださった、むつを様のみお持ち帰りOKです。
あ、もちろん返品はききますので;;

これからも頑張っていきたいです!!



2010.7.2
オレンジ・モナカ


Eternal Infinity 」のオレンジ・モナカ様より、相互リンク記念として頂きましたv
ほのぼの植物園デートですv
植物園とは…意外なところをつかれました!
きっと二人の世界に当てられて、周りの高齢者方はたじたじだったに違いない☆
初々しくて可愛いユーリと、クサイ台詞をさらりと言ってのける次男がナイスですv
素敵小説を有難う御座いましたv今後ともよろしくお願いいたします!

<おまけ>
こちらの小説の冒頭部分を管理人が漫画にしてみました!
興味のある方は此方からご覧くださいませ。